貸本屋白河夜船

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花田菜々子+北田博充+綾女欣伸=編『まだまだ知らない夢の本屋ガイド 』に影響されて書いたSSです。


最近、@hanadananako さんの『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』を読んでそこから『 #まだまだ知らない夢の本屋ガイド 』へ。

まだまだ知らない 夢の本屋ガイド

まだまだ知らない 夢の本屋ガイド

  • 発売日: 2016/11/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)





私の夢の本屋さん、紹介させていただきます!
美少年から官能文学作品を借りる背徳感・・・😳💦

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京都市内、「某所」。
「某」電鉄の、これまた「某駅」を下車し、歩くこと数分。
住宅街のただ中に今回紹介する書店はひっそりと存在している。
書店とはやや異なると言えるかもしれない。

正確に言うと貸本屋であり、その名も「貸本屋白河夜船」と銘打っている。
ただ、お商売をしているかと言えばそこも異なり、レンタル料金等を取っているわけではないと言う。
ここまでの情報だけでもだいぶこの貸本屋についてのはっきりとした情報を提供できていないのであるけれど、それもこの書店の規約によるものなのだ。


私は、自己紹介や履歴書で趣味を記入する箇所があればとりあえず読書と書いておく程度には本を読むことが好きで、かつ、日常的にしている方だ。
京都市内の個性的な書店にも興味があり、大学進学をきっかけに関東地方から京都に引っ越してきた年には、いの一番に恵文社一乗寺店へと自転車を走らせた。
桜柳をこきまぜた鴨川沿いを風をきって北上して行く最中のワクワク感は昨日のもののように思い出せる。
ホホホ座にもガケ書房時代から何度も足を運んだし、誠光社でぴんときた本を購入した足で町の銭湯・桜湯さんに立ち寄り、身も心もほくほくさせて家路に着くのを楽しみにしているのが最近の私である。




本当の読書家、書店好きの方々からすればひよっこ同然でまだまだ知らない書店は数おおくあるが、いま向かっている「白河夜船」については、ごく最近、職場の別部署でやはり読書が趣味だという先輩女性から教えてもらった。
趣味を通じて知り合った女性から教えてもらった店とのことで、先輩は私に「自分と同じにおいを持っている事を感じた」から教えてくれたのだそうだ。



教えてもらった際、所在地と併せて受けた注意事項は次の通り。

一、所在地をみだりに他人に明かさない事(SNSへの投稿含む)。

一、店舗は一般住居の一角に開かれているため、住居部分には立ち入らない事。

一、店主と必要以上に距離を縮めない事。



なるほど、個人営業をしている店なのかと漠然とした想像はついたものの、具体的な部分には靄がかかっている。
しかし、どことなく隠れ家的な雰囲気が私の好奇心をおおいにくすぐった。
ビンゴな店だったら所在地や場所を特定できる描写を伏せることを条件に、趣味でアップしている読書ブログで紹介させてもらいたいという下心も大いにあったため、自然と足が速まった。




その貸本屋は見事に古びた木造アパートの一角に存在していた。
アパートの外観も特徴的なのでここに記録しておくことができないのが残念である。
玄関前に繁る百日紅は、まだ花をつける前でただただ濃い緑が眩しかった。


ガラス部分にステンドグラス風の細工が施された両開きドアを静かに押し開くと、すぐ目の前に階段があった。
ところどころに蹴上部分から向こう側が覗く部分のある階段を恐るおそる上り、右手側へ折れる。
ふた部屋分先の廊下の突き当たりまで歩いて行く。


昨夜降った雨の湿り気がアパート全体にこもっているように感じたが、ガラス窓から射し込む陽の光は案外明るかった。
窓の外にはテラス的な共用スペースがあり洗濯機がゴウンゴウンと回る音がしている。


本当に一般住居の中にあるのだ。
果たして、その突き当り。
ミントグリーンのペンキ塗りの木製ドアに手作りのプレートが架かっていた。



『本日、開いています。貸本屋白河夜船』




ドアチャイムが無かったので小さく「こんにちは」と言いながら、真鍮のドアノブに静かに手を掛ける。
チャイムは無いがドアにベルがかかっていたので、ドラマに出てくる喫茶店のように「カランカラン」という音が部屋の中に響いた。
思いの外よく響くその音を合図に、部屋の中にいた男女の視線が私に集まった。


ドアを開けた所すぐの足元は小さなコンクリートの三和土で、シャンパンゴールド色のパンプスが1足と黒いローファーが1足揃えられていた。
女性は私よりも少し年上、30代半ばだろうか。
男性、というか男の子は中学生くらいに思われた。
このふたりのどちらかが店主だとしたら当然年上の方だろうと思い、私は女性に声をかけた。



「こんにちは、同じ職場の××さんの紹介で初めてお伺いしたんですが」

だが、これに対する返答は男の子の方から発せられた。

「ありがとうございます。まずはこちらで受付をお願いします」

「―えっ?」




思わず目を見開いて大仰に聞き返してしまったら、本棚から数冊本を取り出し受付へ向かおうとしていた女性が「私も最初はそうだったわ」という表情で笑いかけてきた。



慌てて部屋に上がり、窓際のソファで女性の貸出手続きが終わるのを待った。
(貸出手続きは見る限り、店側の貸出管理ノートに本のタイトルと自分の名前を記入し、店側からは本のタイトルと返却期限が書かれたメモ用紙を受け取るという、ごく簡単なものだった)


見渡すと、部屋の広さとしては5畳か6畳程度。
それとは別にして小ぶりの流し台(しかもレトロ感溢れる緑色―後から調べたら「ティール」という色だそうだ―のタイル造り!)と、ひとり暮らしサイズの冷蔵庫、背の低い収納棚が置かれているスペースがある。
床ははめ込み式の木目調フローリングで、それだけで何やらこだわりが感じられるし第一見た目にも暖かい。
天井から吊ってある電球には、乳白色のお皿をひっくり返したような陶器製の電傘がついている。
部屋の光源がこの黄味がかった電球色の光と、外光だけなので早くも物語めいた場所のように感じられてきた。


私が座っているソファは、三和土がある側に配置され、隣には180cm程の高さの書棚が1台、部屋の奥側にも同様の書棚が2台連結で置かれている。
ソファの対角にもガラス窓があり、窓のすぐ傍には1対の木製天板の鉄脚机と椅子。
机と高さを併せた書棚が1台配置されている。
メインの家具はこんな感じで、書棚と机が漆喰を塗った壁に沿ってコの字で配置されている。


ほか、部屋の真ん中には円形の芝生風ラグマットと木製のちゃぶ台がひとつある。
利用者はソファに座るかラグの上で足を崩すか、好きな体勢で本を楽しめるという具合である。
もちろん、貸本屋であるので持ち帰って自宅で楽しむこともできる。




「アイスコーヒー、いかがですか?」


手続きを終えた女性が出ていくのを見送ってから、男の子が声変わりをするかしないかの絶妙な高さの声で問いかけてきてくれた。


「あ、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて―ブラックで大丈夫です」


冷蔵庫からペットボトルのコーヒーを出し、ガラス製の小さなコップに注いでくれた。
両手で受け取ってから、初めての場所で早くも寛ぎ始めている自分に少し驚いた。


「受付ノートに記入をお願いします。ここにはうちと何らかの繋がりのある方しか来ないことを想定しているのですが、一応書いていただいています。ここにいるのが基本、僕ひとりなので防犯的な意味もあるんです」




少年は私に大学ノートとペンを渡してくれた後、自分は窓際の椅子に腰かけた。
コップをテーブルに置くとコトリという音が思いの外、大きく響いた。
余所行きの文字で受付ノートに氏名・電話番号と、ここを紹介してくれた先輩の名前を書きながら横目で少年を観察してしまう。


UVケアなど先の話、学校で体育の授業もあるだろう年代だろうのに女の子のように色白な肌、唇の紅みと切れ長の一重の目、はっきりと存在感のある濃いめの眉が印象的である。
軽率に表現するなら“昭和風美少年”。
まさに漫画家・魔夜峰央センセイが描くような、真紅の薔薇しょう美少年だった。
顔面が完璧な反面、中肉中背の体格に身に着けているのは黒のスキニーパンツに薄手のカラーニットと極ラフなものなので溢れ出る耽美な雰囲気を丁度良く中和できているのだろうか。
しかし、ボートネックから覗くコツリとした鎖骨の窪みが少年と青年の狭間の色気を意識させてきて私は、「書けました」という声が変に上ずってしまい思わず顔を紅潮させることになった。


まったく、彼の存在自体が物語の登場人物のようで、もしこの瞬間「こんな少年がお好きですか?」と問われたならば「春の熊ぐらい好きだよ」と答えていただろう。







店の所在地等、具体的な事を伏せる(もちろん写真撮影もNG)という条件でブログでの紹介について了承を得たので以下はインタビュー形式で記載していく。


―この貸本屋さんの店主さんは■■君ということになるのでしょうか?


(■■君、以下店主とする)
えっと、正確には家主である母なんですけど、僕も母もこのアパートに暮らしているわけではなくて。ちょっと前に母が離婚して、その時住んでたマンションから引っ越した時にどうせなら母が独身時代に住んでたここも併せて借りようってなって、最初は母の事務所にしてたんです。
その頃は僕が学校に行けなくなってしまった時期でもあって。
それならここを僕の部屋にして、好きに過ごしていいよって言ってくれて。


―ここにある本は、その時に■■君が運び入れた物なんですか?


(店主)いいえ。本は母がここを事務所にしていた時からの物で。ええと、母は自営業とうか。マッサージ師と、ライターと、あとは友だちの店の手伝いをしています。
事務所と言っても、会社的なそういう場所というよりもちょっと場所を変えて書き物がしたい時のための部屋にしていました。
だから、自分の本もとりあえずここに保管しておいて、という感じで。


―ああ、だから私がタイトルを見ても懐かしい感じのする本が多めなんですね。
しかも、かなりの雑読家さんですね。
梅原猛の『隠された十字架』があるかと思えば、長野まゆみの『天体議会』に、エンデの『モモ』。
かと思えば、飯島愛の『PLATONIC SEX』・・・これはかなり懐かしくて切なくて、きゅんときちゃいました。
■■君の本もあるのでしょうか?


(店主)はい。僕は大概ここの本を読んでるので、小説とかエッセイ以外の漫画は僕の物が多いですね。でも母も漫画が好きなので数で言えばやはり母の物が多いです。


―私も漫画はちょこちょこ読む方です。川原泉の『笑う大天使』、吉田秋生の『櫻の園』はお母様の方でしょうか。
KAITOの『青のフラッグ』は最近の作品ですし、きっと■■君のですよね!
私はアプリで読んでますが最近は毎回泣いちゃう展開でつらいです。


(店主)それも母が買っています。僕は母のを読んで知りました。


―えっ、そうなんですかぁ?! お母様といろいろ語り合いたいです!


(店主)だから、ここを会社の方に勧められたんだと思いますよ。ここに立ち寄られる方は母と好みが通じる部分があります。


―あっ、そういうことか。
いけない、これは本屋さんについてのインタビューでした。
貸本屋というスタイルはどういう経緯で始められたんですか?


(店主)僕が学校に行きづらさを感じて休んでいた時期、最初は母がここに来る時に一緒について来ていたんです。その頃はまだ小学生だったので。
母の友だちも会社員をしてる人もいるんですが、母と同じように自営業をしている人もいるので、そういう人たちが時間を問わず遊びに来て、来たら本を読みながら話をして、気になる本があったから借りていくねというように何冊か持って帰って行くんです。
そして、次に来る時に本棚に戻していって。
僕は、学校は苦手だったけれど大人の人たちがいる中に勝手にいるのは大丈夫でした。
そのうちに、友だちの友だちという人も来るようになりました。
僕もその人たちと顔見知りになりましたし、そのうちに保健室登校ができるようになっていきました。
中学校に入ってからは学校に行くこともしんどくなくなったので、学校にはちゃんと行って、夕方には一旦こっちに寄ってしばらく過ごしてから帰宅するという生活になりました。
だんだんと、ひとりでここで過ごす方が気楽になってしまって。
住んでるマンションにも僕の部屋はありますが、こっちの方が僕の部屋という感じです。


―お母様のお友だちのお友だち・・・ということで、私みたいな者も訪問しているわけですがこれまでに変な人とか来たりはしませんでしたか?男性も来られたりするんでしょうか?


(店主)友だちの友だちというと、もはや僕にとっては他人なんですけれど。あっ、すいません。


―いえいえ、事実そうですから。


(店主)何というか、類は友を呼ぶみたいな感じで。母と系統が似ている方が多いように感じます。母は、親なのでもちろん僕にとっていちばん近しい人なんですけど、なんというか―踏み込んでくるところは来るけれど、普段はちょうどいい距離を持って接してくれる人というか。
僕が学校に行けなくなった時期も、行きたくないと思うようになった経緯を最初から聞いてくれたり、その上で僕がどうしたら嫌な気持ちで過ごさなくてよいかだけでなく、学校に通わないという選択肢を取ることで何が起こるかも調べて考えてくれて、二人でたくさん話をして決めました。
そういう母なんで友だちは変わってるなぁと感じる人もいますけれど、だいたい落ち着いて真面目な印象の人が多いようです。女性でも男性でも。


―中学の同級生は来たりしませんか?


(店主)クラスの人たちには言ってないんです。まだ、僕の空間ってことにしておきたいですし。ただ、小学校の時の友だちは何人か来ることがあります。たまにですけど。


―おっ、それはもしかして女子ですか?


(店主)(笑)


―そうですよね。これ以上は聞かないでおきます、お年頃ですもんね。
お年頃と言えば、めちゃくちゃ気になるコーナーがあるのを発見してしまったのですが・・・アレには触れてよいものでしょうか?


(店主)あはは、アレですよね。


―ええ・・・あのぅ・・・「刺激的な本」のコーナーです。
(4連ある本棚の内の一角、1段にも満たない冊数なのだが、表紙のタイトル部分だけが見えるように切られた黒い袋に入れられている本が収納されている場所があるのだ。「刺激的な本」という手作りプレートが差し込まれて!!)


(店主)あそこはいわゆる年齢制限ゾーンですね。
ここを借りた当初、小学生の僕が読むのはちょっと早いだろうと母が判断した本たちです。母も聖人ではないので官能的な表現がある本はもちろん読んでいるのでしょうし。
特に漫画は露骨にわかってしまうので、ああいう保管方法にしたんでしょう。


―私も嫌いではないのでざっと拝見いたしました。
石田衣良の『娼年』はわかりますね。団鬼六、花房観音、渡辺淳一もありますし、私個人的には沙村広明の『ブラッドハーレーの馬車』がここにあることにわかりみを感じました!二村ヒトシもこっちに入っていました。
タイトルずばりな山崎ナオコーラの『人のセックスを笑うな』、官能的な表現があっても谷崎潤一郎、吉行淳之助なんかはここには入らないんですね。
BL、百合だからと言ってここに入るわけではないようですし、三島由紀夫の写真集もここには入っていない。
お母様がちゃんと考えて分別されているのがわかりました。
でも、逆セクハラになってしまいそうな質問ですいません。
正直、■■君だってそういうことに興味はあります・・・よね?


(店主)―ありますよねぇ。
でも、母が早いうちにこういう風に区分してくれたことによって、まぁ、母目線ではありますがそういうものの中にも興味本位でインプットしては良くない物があるんだということはわかりました。


―(なんていい子なんだぁぁぁ!!!)


(店主)なんですが、興味があるものは一応リストアップして相談します。


―ええっ?!


(店主)ここの本は母の以前からの蔵書がほとんどですが、母も僕も新しい本は読みたいので月に何冊かは購入しています。購入は母がしてくれているので、毎月読みたい本をジャンル問わずでリストアップして伝えるんです。
その結果、例えば、原寸大おっぱい図鑑はやはりあの棚行きでした。
紗倉まなさんの場合は、小説はOKでしたがスタイルブックは棚に入ってしまいました。


―な、なるほど・・・。ネットでは検索したりしませんか?


(店主)やろうと思えばスマホでいくらでも検索できますが、最初に母の方からこういう方法を提示してくれたわけですし、それをしてしまったらフェアじゃないと考えています。文学作品から楽しんでいきます。


―(文字からの情報でかえって想像力豊かになりそうだなぁ、オイ!!!)
けっこう長い時間お話してしまいましたので、この辺で締めたいと思います。
■■君はこれからも貸本屋さんを続けていきたいですか?


(店主)はい。受験とか高校進学とかありますが、先のことはわからないですけれど誰かしら訪ねてくるこの空間とか本を読むこと自体が好きなので、こういう時間が続けばいいと思っています。


―ありがとうございます。私もこの部屋が好きになりそうな予感がしています。
せっかくなので、今日はあの棚から1冊借りて行きますね。
今日はお話を聞かせてくれてありがとうございました。





そして、私は「刺激的な本」のコーナーからジョルジュ・バタイユの『眼球譚』を借りた。
「20世紀の文学史上、もっとも重要なエロティシズム文学」と評価されることも多い小説である。
品行方正な美少年と向かい合いエロ文学の貸出手続きをしている最中に感じた背徳感が、これから読む物語への期待感をより一層膨らませたことは言うまでも無い。



あの少年は、1年後、3年後、5年後、どんな風に成長していくのだろう。
無意識に想いを馳せてしまう。
あそこに通う人々はアパートの雰囲気だけでなく、少年の成長にも興味があるに違いない。
明日、先輩にも聞いてみよう。



貸本屋白河夜船
営業日時 平日16時もしくは17時、土日は不定期開店

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