たとえばこんな、夢を見ました―
「みぞろヶ池の大蛇姫、夜な夜な都へいざり出て愛し吾が子の精を吸う」
何処からともなく耳に滑り込んでくるわらべ唄を聴きながら私は寂れた鳥居を潜ります。
大学附属の研究所の調査で氷河期からの水棲植物が生息する池を訪れた折に、茂みからするすると姿を現した白い蛇に足首を噛まれてから毎夜夢を見るようになったのだと思います。
自分のことなのに「思います」などと曖昧な表現をとるものおかしいものですが、実際、ここ数日の自分はいつ眠っているのか目覚めているのかその境目すらはっきりとしません。
もしかしたら自分を噛んだ蛇は毒蛇で、自分はその毒にやられて昏睡状態にあるのではないかしら―と考えている今も夢の中かもしれません。
鳥居を潜る時はいつも夕刻から夜―黄昏時です―、長い長い石階段をヒールをこつこつと鳴らしながらゆっくりと上っていきますと、しっとりとした霧が立ち込め始めます。
古い御堂が見えます。
さらに立ち込めた霧の向こうに灯りが見えます。
あっという間に夜の帳が降りてしまうのでその灯りを求めて私は御堂の扉をがたぴし言わせて開くのです。
すると、御堂の中には蝋燭の灯りに照らされる一人の少女の後ろ姿が現れます。
鴉の濡れ羽のような黒髪はどこまでも長く床に伝っており、その小さな背中をすっかり隠しているので少女がどのような服装をしているのかはわかりません。
湿気た空気に混じって、格調高く思われる香の匂いが漂い、何時しかうっとりとした心持ちになってきます。胸中より湧き上がる恍惚感に耐え切れずひとつ溜め息を漏らすと同時に少女が振り向きざまに私の胸の中に飛び込んできます。
驚くと共に言い知れぬ愛おしさを感じて胸の中の少女を見れば、生まれたままの姿で私の顔を見上げています。
その表情はけっして笑っているというようなものではありませんでしたが、切れ長の両の目は潤み、柘榴の実のような赤い唇から覗く白い歯は小粒できれいに揃っており、一種、蟲惑的ですらあります。
「お姉ちゃん、待っていたよ」
少女の両目を見てしまうと、身体と思考は一切の動きが取れなくなり、後は少女の為すがままとなってしまうのです。
妖しい術をかけられたように私のシャツやスカート、パンプスやストッキングや下着が取り払われ、少女の細く白い指がそこかしこをまさぐります。
時には薄く血が滲むまで内股や二の腕を噛まれることもあります。
中でも、舌を使っての愛撫はもっとも不思議な感触でした。
少女のものなのに長く、細く、かつ、動きがひどく早く・・・さらに感触から想像するに二股に分かれています。
乳首への愛撫は両側から突起を挟まれ擦られることとなるのです。
ひとつの極みを迎え、ふと意識を失うのが常ですが気を取り戻した後に見る光景はいつも同じでした。
私の両の脚の間から白く艶々と濡れた小さな蛇が這い出してくる―
「お姉ちゃんはあのお方の生まれ変わりなのよ。私は百年ここで待っていた。もう離れたくないから一緒にお池に入りましょう」
濡れた蛇が灯りのもとで少女の姿に変容を遂げ、その顔を見れば小さな愛らしい口から細く長い舌がちろちろと出たり入ったりを繰り返していたので私は「わあっ」と声をあげ、取る物もとりあえず御堂から転がるように逃げ出すのです。
研究が次のプロジェクトに進んだので、もうあの池を訪れることはありません。
池を離れてからは夢を見ることもなくなりましたが、時々、目覚めるとベッドの中がしっとりと濡れていることがあるので、そんな時は幼い少女の姿を思い出し、「次の百年がはやくきますように」と想いを馳せる胸が小さく疼くのです。
